2018/04/15
相続税を心配されている方の相続税の試算の業務をお受けすると、3人に1人程度は相続税を払う必要がないという結果が出ます。平成27年の相続税増税によって「これ以上の遺産があったら税金を払う義務がある」という基準の金額が引き下げられ、相続税を払う義務が生じる人が以前よりも増加しましたが、それでも一定のお金持ちに限った税金である点は変わりません。
ただ、相続税を払う必要がない方でも相続において、特に遺産分割の点で注意して欲しいことがあります。そのあたりを書いてみます。
相続税を払う必要のない人の相続手続き
相続税を払う必要がない人の多くは、こんな流れて相続を進めていきます。
1.遺言書があれば、家族で確認手続き
2.家族で遺産の分割を話し合い、分割協議書を作成する
3.その分割協議書に従って、銀行口座の名義を変更したり解約したりする
4.土地・建物の名義も司法書士に変更を頼む
5.生命保険の請求をする
6.公共料金や携帯電話やこまごま変更していく
相続税の申告や納税の手続きが必要ないので、スポット的に登記や書類作成を専門家に頼むことはあっても、基本的には家族内で終わらすことができます。遺産分割についても、税金を意識するタイミングがありません。ここが落とし穴になるケースがあります。
遺産分割の仕方で大きく変わる
こんな事例が考えられます。
父が、自宅の土地・建物のみを残して亡くなった。家族は、母と長男1名だけである。長男が近所に妻や子供たちと家を買って住んでいるので、父の1周忌も済んだら、母も住んでいた自宅を売却して長男家族と同居を始めようと考えています。自宅の売却価格は、5千万円ぐらいです。
相続税は遺産が自宅だけなので払う必要がないので、遺産分割も母と長男でちょっと話し合って特に難しく考えることなく法定相続分、つまり母と長男で自宅を半分ずつ共有で相続したとします。
この場合、その後の自宅の売却で支払う必要がある譲渡所得税と住民税は、約450万円です(*1)。
(1) 自宅の取得費500万円・自宅は10年超住んでいると仮定しています
他方、遺産分割を一工夫して、その自宅に住んでいた母に全部相続させることにしたとします。この場合、譲渡所得税等は約210万円です。
遺産分割の仕方を変えるだけで、相続の後の自宅売却時に、所得税が大きく変わるのです。この差は、「マイホームを売ったときの3千万円特別控除の特例」と「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」という2つの税金が安くなる特例を使える母に遺産分割を集中させることによってできる節税です。
相続税の必要ある・なしに関係なく相談する
相続税の支払う必要がある方については、相続税の申告書を作成していく段階で税理士から遺産分割についても税金の側面からアドバイスがされるはずです。その際、今回のケースのような場合には、母に相続すると売却のときには所得税が安くなりますよと伝えられます。
ただ、相続税を支払う必要がないような場合には、税理士が立ち入らないで遺産分割が終わってしまうケースも多々あります。こんなとき、気づかないで高い税金を払うことになってしまう可能性があります。
遺産が少なく相続税がかからない場合であっても、念のため一度、税理士に相談することをお勧めします。相続のスタートの段階で相談して口座の名義変更や生命保険の請求の仕方、不動産の登記をする司法書士を紹介してもらうなど、まとめて頼んでしまうのも良いと思います。