2018/04/15
経営者の方と決算書や月次試算表を見ながら会社の状況を話していると、経営者の方が???と納得されないことがあります。経営者の経営感覚と決算書にズレがあるのです。
こんなときは決算書が会社の状況を上手く反映していない、「決算書が歪んでいる」場合があります。これを放置すると経営者は会社の状況を誤解して見誤ることになります。この歪みの原因と解決法について書いてみます。
決算書の歪みについては、こちらにも書いてます。
決算書の歪みとは
決算書は、会社の資産・負債を表示する貸借対照表と会社の1年間の売上・経費・もうけを表示する損益計算書で出来上がっています。会社の現在の実態をそのまま数字に反映して、経営の成績を判断するためのものです。
この決算書が実態と違う(あるべき資産や負債が載っていない・載っていても金額が多すぎる少なすぎる・経費が多すぎる少なすぎる・もうけが多すぎる少なすぎる)ことを決算書の歪みと言います。
歪みが生じる原因としては、経営者自らが粉飾決算を行っているような意図的なものを別として、経営者は気付いていないものがあります。よくあるものとして、『実際に回収することが困難な売掛債権を税金的な要件を満たしていないとして貸倒損失としての処理を先送りすることによる歪み』があります。
売掛債権の貸倒損失の処理とは
売掛債権の貸倒損失の処理とは、売掛金や未収金が相手先の倒産等により回収不能となった場合に損失として計上することをいいます。決算書上は、貸倒損失という費用が計上されるので利益が減り、他方、売掛金という資産が減少する結果となります。
売掛金の回収不能は、突然訪れることは稀です。売掛金の相手先の調子が悪いことを噂で聞いたり、支払いを少し待ってくれないかと相談されたり、なかなか連絡が付かなくなったり、大半整理して会社が小さくなったり、実質営業停止になったり、など時間を経過して回収不能に陥ります。
決算書を会社の状況をタイムリーに反映して経営判断の参考にしようと考えるなら、取引先の事情に鑑みて回収が困難だと判明したら早めに貸倒処理をすべきです。経理上、貸倒処理をしたとしても当然1円でも多くの回収に努めることに変わりはありません。
しかし、ここで問題が生じます。税法の世界では、この貸倒処理が認められる要件が厳しく決められているのです。ちょっと難しい話ですが、その要件を国税庁HPから挙げてみます。
法人の金銭債権について、次のような事実が生じた場合には、貸倒損失として損金の額に算入されます。
1 金銭債権が切り捨てられた場合
次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられる金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されます。
・会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられる金額
・法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられる金額
・債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額2 金銭債権の全額が回収不能となった場合
債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。ただし担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。
なお、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません。3 一定期間取引停止後弁済がない場合等
次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対する売掛債権(貸付金などは含みません。)について、その売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができます。
・継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したときただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます。
・同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
簡単に言うと、税法上では貸倒処理をするのは、”絶対に”回収することができないことが決まってからにしてくれと要請されているのです。税金計算の側面から、不明確な損失が計上されることを防止しようというものです。 この点で、貸倒処理を巡って2つの選択肢があります。
①決算書にタイムリーな会社の状況を反映させる→「早めの貸倒処理」
②税法の基準と同じタイミングで行う→「遅めの貸倒処理」
経営者の視点で回収できそうになければ、貸倒損失の処理をしてもらう
多くの企業の決算書を見ていると、②税法の基準で「遅めの貸倒処理」が多くされています。特に中小企業ではその傾向が強いと感じます。実際には回収できない売掛金が税法の要件を待って、いつまでも決算書に表示されているのです。
金融機関対策として、損失処理を出来るだけ後回しにしているなど経営者が意図しているのであればまだ良いのですが、意図せず会計事務所に任せているだけだとすると決算書から見える数字の歪みが経営判断を狂わせるリスクがあります。会計事務所では、①の方法で早めの貸倒処理をすると税金の申告書でまだ税法では認められない早い貸倒損失を除いて税金を計算する手間がかかるため、特に要望がないので②の方法をとっているというケースもあります。
決算書を会社の現状の鏡として、財務分析や経営判断に使用していこうと考えるなら、①の方法、つまり経営者の視点で「この取引先からは回収できそうにないな・・」のタイムリーなタイミングで貸倒処理ができるよう税理士に頼むと良いです。知らずに放置しておくと、決算書はどんどん歪み、会社の現状と乖離していくことになります。